年収216万円、890万人の「絶望」― 日本社会を根底から変える革命的アイデアとは
Introduction: “一億総中流”の終わりと、見過ごされてきた危機
かつて日本の安定を象徴した「一億総中流」という言葉は、今や完全に過去のものとなりました。多くの人が日々の努力にもかかわらず、漠然とした将来不安を抱え、社会全体が少しずつ壊れていくような感覚を抱いているのではないでしょうか。個人の努力だけではどうにもならない、システムの限界が露呈しています。
この記事では、現代日本が直面するこの深刻な危機を分析し、社会を根底から変革しうる、ある画期的な社会経済論文の核心的な提言を解説します。それは、単なる対症療法ではない、日本の未来を救うための大胆かつ具体的な処方箋です。
1. 890万人の「アンダークラス」― その3人に1人は”高学歴”という不都合な真実
まず直視すべきは、日本社会に定着した新たな階級の存在です。非正規労働者を中心とする「アンダークラス」は、今や約890万人に達し、これは就業人口の**13.9%を占めます。彼らの経済状況は極めて厳しく、、貧困率は37.2%**に及んでいます。
しかし、最も衝撃的なのはその内実です。このアンダークラスのうち、男性の37.9%、**女性の34.3%**が大学・短大・高専の卒業者なのです。これは、国民の税金によって育まれた貴重な「人的資本」が、低賃金の単純労働で浪費されているという、システム的な失敗を意味しています。
この経済的困窮は、精神的な健康にも深刻な影響を及ぼしています。アンダークラスの19.8%、つまり約5人に1人が精神疾患の治療経験を持っており、この割合は他の階級の約2倍に達します。これは、先達が築いた教育という「徳」が、現在の雇用システムによって「負債(将来不安)」へと転換されていることを示唆しているのです。
2. なぜ日本は豊かにならないのか? 企業が溜め込む550兆円と、社会に転嫁されるコスト
この問題の根源は、資本主義が「教育」や「土地」といった共有財産を単なる市場の「商品」として扱ったことにあります。この「商品化」を前提とした企業経営は株主価値の最大化を優先するあまり、その活動が社会に与える負の影響、すなわち「社会的費用」を外部に転嫁し続けてきました。
日本の企業が内部に溜め込んだ資金(内部留保)は、過去最高の約550兆円に達しています。しかし、この巨額の富は国内の労働者やコミュニティに還元されることなく、社会は深刻なコストを負担させられています。人的資本の毀損だけではありません。アンダークラス男性の未婚率66.4%42.3万ヘクタールもの耕作放棄地です。
これは単なる企業の強欲の問題ではありません。個々の企業が合理的に利益を追求した結果、社会全体が疲弊していくという「自己破壊的なフィードバックループ」に陥っており、経済システムそのものが機能不全を起こしているのです。
3. 解決策①:「悪い行い」を経済的に罰する”アンダークラス抑制税”
この壊れたシステムを修正するための第一の処方箋は、企業が外部化してきた社会的・環境的コストを、企業ガバナンスに強制的に組み込むことです。その手段となるのが「ピグー税」という考え方に基づく、多層的なペナルティ課税です。
具体的には、三つの税が提案されています。第一に、非正規雇用の比率や離職率、従業員の精神疾患発生率が高い企業に課税する**「アンダークラス抑制税」。第二に、国内への再投資を促すため海外資産への課税を強化する「資本逃避・不透明資産課税」。そして第三に、非効率なグローバル・サプライチェーンに課税し地産地消を促す「資源生産性連動型炭素税」**です。これらの目的はただ一つ、労働力や自然を「使い捨ての商品」として扱う経営の経済的優位性を完全に剥奪することにあります。
4. 解決策②:お金で測れない貢献を報いる”徳のクレジット”という未来
ペナルティだけでは社会は再生しません。より重要なのは、新たな価値分配の仕組みを創造することです。その核心となるのが、三層構造の分配モデルです。
第一の土台は、全国民に月額12.5万円を給付するベーシックインカム(BI)「教育・知・農」というストックから生じる「配当」と位置づけられます。これにより、人々は生存のために不本意な労働に従事する必要から解放されます。
第二の層は、労働意欲を削がずに経済的自立を支援する**「マイナス所得税」**です。これは、一定所得以下の層に対して所得を補填する仕組みであり、ワーキングプアを構造的に解消し、人々がより創造的で社会的な活動へ目を向ける経済的余力を生み出します。
そして、第三の層がこのモデルの最も独創的なアイデアである**「徳のクレジット」**です。これは、お金に換算されないけれども社会にとって極めて価値のある活動を評価するための、非貨幣的なデジタル通貨です。例えば、家族の介護、地域でのボランティア活動、耕作放棄地の維持といった貢献が記録され、このクレジットで報われます。
このクレジットには二つの重要な機能があります。一つは、将来自分がケアを必要とするときに、それを受けるための「権利」となること。もう一つは、使い切れなかったクレジットが、その人の社会貢献の歴史を示す**「生きた証(レガシー)」**として可視化され、地域社会の繋がりを強固にすることです。論文は、このプロセスを次のように表現しています。
これは「受けた教育(社会的負債)」を「社会への貢献(徳)」で返済するプロセスである。
Conclusion: 私たちは「商品」であり続けるのか、それとも「人間」へ回帰するのか
現在の経済システムは、人間、教育、自然といった共有財産を、利益を生むための「商品」へと変えてしまいました。今回紹介したモデルは、この流れを逆転させ、私たちの経済を再び「道徳的インフラ」の上に打ち立てるための、具体的で希望に満ちた処方箋です。それは、GDPのような量的な指標ではなく、「国民純徳量(NNV)」とでも言うべき質的な豊かさを目指す社会への転換を意味します。
私たちに残された問いは明確です。私たちが先達から受け継いだ知恵や大地という贈り物を、私有化して自らを滅ぼす道具とするのか。それとも、次世代のために豊かにして還すという**「報恩」**の道を選ぶのか。未来への選択が、今問われています。


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