禁輸撤廃 中国に訴え 処理水放出1年 政府、水産業支援を継続

原発処理水

東京電力福島第一原子力発電所の処理水の海洋放出を受け、中国が踏み切った日本産水産物の輸入停止措置は、依然として解決のめどがたっていない。日本は「脱中国依存」に向けて販路開拓などを進めるとともに、中国に科学的データに基づく安全性を説明し、措置撤廃を求めていく方針だ。

■首相視察

 岸田首相は24日、処理水放出から1年を迎えたのに合わせ、福島県いわき市の小名浜魚市場を視察した。水揚げされたカツオやウニなどを試食して安全性をアピールしたほか、県漁連の野崎哲会長との意見交換では、「安心してなりわいを継続できるように必要な対策を続ける」と述べた。

■需要開拓

 首相が支援継続を約束したのは、中国による日本産水産物の輸入停止措置が、全国の漁業者や水産加工業者の売り上げになるべく影響を及ぼさないようにするためだ。

 農林水産省が発表した2024年上半期(1~6月)の農林水産物・食品の輸出額は、前年同期比1・8%減の7013億円で、4年ぶりに減少した。中国向けが同43・8%減と落ち込んだことが響いた。

 特に影響が大きかったのがホタテだ。処理水放出前、中国向けは輸出額の5割超を占めた。中国に殻付きのホタテを輸出し、同国で加工後に米国に再輸出するケースが多かった。

 政府は水産業を守るため、昨年9月、総額1007億円の政策パッケージをまとめ、国内消費の喚起や輸出先の多角化などを進めた。

 日本貿易振興機構(ジェトロ)は同月、政府の要請に応えて緊急対策本部を設置。これまで、海外のバイヤーと日本の水産・加工業者の商談を1400件以上設定するなどした。米国の大手水産卸会社が日本産ホタテの調達を決めるなどの成果があった。

 こうした取り組みの結果、ホタテ輸出額は今年上半期、米国が前年同期比64・1%増、カナダが同7・2倍、ベトナムが同7・9倍、タイが同3・5倍となった。

 首相は24日の視察後、記者団に、政策パッケージについて「(日本産水産物の)従来の対中国輸出量の約半分について代替販路を開拓するなど、効果は着実に出ている」と意義を強調したが、「完全に置き換えるには至っていない」とも指摘。追加支援策を検討するため、近く関係閣僚会議を開催する方針を示した。

■変化

 もっとも、中国の措置が続く限り、日本の水産業界の苦境は打開できない。日本は中国に、国際原子力機関(IAEA)が関与した監視体制による安全性への理解を引き続き訴え、措置撤廃を粘り強く働きかける方針だ。

 中国は処理水を「核汚染水」と批判し、独自の試料採取を要求するなど、日中間の隔たりは大きい。ただ今年に入り、中国は、昨年11月の日中首脳会談で日本側が要請した専門家協議に応じるようになった。

 背景には、中国の国内経済の減速がありそうだ。日本からの投資を呼び込むためには日中関係改善が不可欠だが、措置を継続したままでは難しい。ある日本政府高官は「中国は振り上げた拳を下ろす場所を探っているのだろう」とみる。

 11月には中国の 習近平 シージンピン 国家主席が出席する主要20か国・地域(G20)首脳会議がブラジルで開催される。日本は岸田首相の後継となる新首相と習氏の会談を模索しており、解決の糸口を見いだしたい考えだ。

タンク解体来年にも開始 
ほぼ計画通り 
 国際社会が注視する中、昨年8月に始まった処理水の放出は、科学的根拠に基づいておおむね計画通りに進められている。

 処理水は毎回の放出前、東京電力と日本原子力研究開発機構が放射性物質の濃度を測り、安全を確かめた上で海に流される。放出後は、東電や環境省など複数の機関が原発近くの港湾内や周辺海域で海水を採取し、水質を監視する。魚や海藻類も調べて異常がないことを確認し、公表してきた。

 処理水放出は、廃炉の「本丸」である核燃料デブリ取り出しにも関わる問題だ。東電は、放出で不要になった処理水の貯蔵タンクの解体を来年1月にも始め、跡地に放射線量が高いデブリの一時保管に使う施設を建てる方針だ。

 まずは約1000基のうち21基を2026年3月までに撤去する。原発建屋への雨水流入を抑制する工事も進め、処理水の元となる汚染水を減らす取り組みも強化する。

 茨城大の鳥養祐二教授(核融合学)は「処理水放出は今後も数十年単位で続き、取り組むべき課題も多い。気を緩めることなく、安全、確実に進めていくことが必要だ」と話す。

 一方、同原発では昨秋以降、順調な処理水の放出以外の場面で、トラブルが相次いでいる。今月22日にも、デブリの試験的取り出しの準備作業が初歩的なミスで中断した。福島県相馬市の漁師石橋正裕さん(45)は「処理水に対する不安は、どうしても頭の片隅から離れない」と明かす。

 東京大の開沼博准教授(社会学)は「13年前の事故を経験した地元住民からすれば、小さなトラブルも不安や不信を抱かせるのに十分だ。東電にはトラブルの芽を摘む努力が求められる」と語る。

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